学習療法シンポジウム2010 in 東京


4名の医師のディスカッション  (敬称略)


泰羅
(座長)
ディスカッションに入ります。
他の先生方の発表をお聞きになってのコメント、もしくはご自身の発表で、もう少しこういうことが言いたかったということも含めて、ひと言ずついただければと思います。
学習療法を実施して、ご利用者も、スタッフも変わる
石橋 町のお医者さんたちは認知症の方にすぐアリセプトを処方されます。それで認知症を治療していると思い込んでいるという気がしますがいかがでしょう?
森 弘光 私は老健の施設長をする前までは、認知症の医療はアリセプトで始まり、アリセプトで終わると思っていました。アリセプトが認知症を改善してくれるという無責任な考え方もあったと思います。老健の施設長を3年前から再度兼任することになったときに、介護の現場が学習療法を実施していて、スタッフが以前と全く違っていました。事例(Fさん)でもご紹介したとおり、主治医の先生に「私たちの介護に責任を持ちますから、お薬をやめてくれませんか」と言ったそうなんです。すごいなぁと思いました。そのFさんが学習療法を受け、日記を書けるようにまでなったということを考えますと、単にアリセプトを処方すればよいと考えていて、認知症の方を在宅でケアするための、家族への細かい指導や相談をドクターはしていなかったのではないかと思います。
抗精神病薬を投与して学習療法をすることは、サイドブレーキをかけてアクセルを踏んでいるようなもの
田仲 石橋先生は光トポグラフィーも取り入れられて、とてもエネルギッシュに、抗精神病薬を止められるという私たちがやりたいと思っても、なかなか踏み込みにくいところに入られたわけですが、それに関するご苦労はありましたか?
石橋 私は26年間外科医をしておりまして、10年前にこの介護の世界に入ってきました。外科医の頃は術後不穏状態になると、薬でどんどん押さえ込むんですね。だから認知症の周辺症状(不穏、暴言、暴力・・・いろいろなことがあります)も、薬で押さえ込むんだと最初私は思い込んでいたのです。医者からこの世界へ来ましたから。それで抗精神病薬を投与するとバタバタ倒れられるんですよね。中には骨折される方がいらっしゃる。「あぁこれは抗精神病薬はやっちゃいけない、切ってみよう」と思い始めました。今は最初に抗痙攣薬も止めています。3人に1人くらいは抗痙攣薬もいりません。外科医ですからシンプルにこういう思い切った方法をとります。そして抗精神病薬を中止して学習療法を始めるとものすごく効果があります。結局、車に例えると、サイドブレーキをかけて、アクセルを踏んでも動かない、それと一緒だと思います。抗精神病薬をやって学習療法をやってもほとんど効果は出ないんじゃないかと私は考えています。
田仲 現在7%の方が内服されているとありますが、その方々はどうしても必要ですか?
石橋 抗痙攣薬は一度は切るのですが、再発された方はやっております。それから夜間せん妄の強い方、不眠がある1〜2名の方は睡眠薬を。しかし再発で抗痙攣薬をまたやると、皆さん朝からボーとされる。ですから、できたら止めたほうがいいとは思うので、一度は止めてみます。
老健施設の"在宅復帰"という役割について
森 崇文 老健施設は在宅復帰の中間施設ということで、在宅復帰率を上げるというのが1つの数値的な目標にあります。うちの場合、昨年10月(半年前)に「おとなの学校」(学習療法を軸とした老健施設)を始めるまでは、頑張っても33〜34%。学習療法をスタートした後は、季節で冬は寒いからということで20%台だったこともありましたが、今はだいたい60〜80%の間を推移しています。厚生省で点が付くというのは、後からの話しですが、50%以上で加算がつきます。みなさんのところの復帰率をどうでしょうか?
田仲 石きりでは在宅復帰率を上げることを目標にして、多職種から在宅復帰チームを組んでもらっています。カルテの表に「カエルのシール」を貼って、○年○月頃に帰るということを意識付けして、スタッフみんなでその人たちをサポートしていくという試みです。第1目標は30%を超すこと。リハビリもスタッフの拡充ができたので、短期集中などをしっかりとってやっていきたいと思っています。ただ能力的には帰れるのに、帰れない方の多さがあります。私は個人的には、どんな状態であっても在宅に帰れない人はいないと思っています。例えば寝たきりで独居であったとしても、そこに上手くサービスさえ入れられれば帰れる。実際に帰っている方を見ていたこともありました。だからどこにハードルをもっていくかで在宅復帰と言うのはまったく変わってきます。でも実際には家族が働いている、住居の問題、地理的な問題(私たちの地域は山のふもとで、坂の多い地域です)があったりしますので、ご家族との面談でハードルを下げる相談もしています。
森 崇文 どんな方でも在宅に帰れない人はいないと言ってくださった力強いお言葉、ありがとうございました。
会場からの質問
精神病薬を切ることの影響を知りたい
Q:抗精神病薬や、睡眠導入剤を切った直後に起きる、周囲の者への影響は? またその解決方法は? (山梨県・地域包括センター勤務)
石橋 私のところは認知症専門棟がありますが、抗精神病薬を切ろうが切るまいが、ほとんど変わらない。どんな方でも新しい環境下ではある程度不穏状態になります。ですからスタッフは慣れ、余裕で、他人に暴力を振るう場合以外は見て見ない振りといいますか、それくらいのレベルでやっています。切ったら一晩中眠らずワーワー言うからダメだとかも言いません。2〜3日、1週間したら大丈夫ですといった感じで長い目で見られるようになっています。また、こればかりは切ってみないと理論ではわからない。切ってみるとほとんどの方がスッキリと本来の自分を取り戻されます。学習療法はお薬を切って10日から2週間くらい、お薬がなくなり、入所に慣れられた頃から始めております。
学習療法は全ての人にできるのか
Q:学習療法を始めるに当たって、本人がする気がある人には何でもできると思うが、やる気がない方、拒否のある方にできるのでしょうか? できるのであれば、そういう方にどのような工夫でスタートを切らせてあげているのか教えていただきたい。(病院・外科勤務)
石橋 私のところでは全員の方が学習療法をするわけではありません。他の音楽療法や折り紙、運動といったその人の趣味から入り込んでいきます。
森 弘光 「こんなやさしいもん出来るかー!」と怒る方もいらっしゃいますが、その拒否の理由・内容をきちんと吟味していけば、だんだん学習ができるようになります。ただ経済的な理由で、学習療法を受けられない方はおります。
田仲 石きりでも全員ではありません。学習療法が合う方、合わない方はおられます。スタッフが一生懸命やっても学習療法を楽しめない方は、うちでは卒業ということにしています。
森 崇文 最初悩みましたが、学習療法は全員にできます。やっています。もちろん状態や性格によっても違いますが、最初は一緒に時間を過ごすだけという形ででもしていただきます。周りの方がやっていて元気になっていく姿を見ると、偏屈な難しい男性の方も、1〜2ヶ月経ってくると、「じゃあ勉強行こうか」となります。コミュニケーションを個別にとっていくことがミソだと思いますが、別に追い立てるわけじゃなくて、時間が来たらお誘いする、ダメだったら一旦は引く、また次の日にお誘いするという形をとります。あとは介護度がかなり上がって寝たきりで、なかなか反応のない方でも読み聞かせといった形でやっていいます。表出できないから反応がない、だから効果がないというのはこちらからの一方的な評価で、ご本人がどう受け取っているかは全く別問題です。ですからうちでは全員に学習療法の導入を行なっております。
泰羅 かなり本質的な質問をいただきました。山崎律美先生(特養・永寿園/学習療法研究会理事)からもひと言いただければと思います。
山崎律美 私どもの施設でやっていて思うのは、はなから学習療法でなくても、その方の過去の生活史を知り、その方が興味や関心を示す何かを引き出し、それをきっかけに、学習療法へもって行くという2段階、3段階の構えでいいのではないかということです。その方が生きてこられた中に何かとっかかりがあるのではないか、それを見つけきれるかどうかが我々の力量にかかってくるのではないかと思います。
学習療法スタッフは専任か? 介護スタッフか?
Q:私の施設では、学習療法のスタッフは介護スタッフを中心に行なっていますが、おとなの学校の森崇文先生は、学習療法の専任のスタッフを採用されているとのこと。兼ねるのと専任はどちらがいいのでしょうか?(東京都・特養勤務)
森 崇文 学習療法にはパートタイムの専任職員を配属しています。うちは学校という形式をとっておりますので、授業という形で3コマ30分ずつあり、必要な介護も取り1日を過ごしていく中で、学習療法は、時間が来たら、その方をスッと連れて行って、15分間やるという形です。入所者さんとデイの方あわせて一日に50〜55名を3名の専任スタッフが日勤帯の一部でやっています。
森 弘光 これは会場内でも議論の分かれるところかと思いますが、私たちは専門スタッフは置かず、全職員で取り組んでいます。それは目的が学習療法中の気付きをケアプランに生かさなければならないとしているからです。うちの施設に4、5人ケアマネージャーがいますが、ケアマネージャーが看護、介護をしなくていいのかというと、やはりケアマネージャーも看護、介護、夜勤もしなければ、本当にその人たちのことは分らないということです。
森 崇文 私たちは毎週1回45分から60分ミーティングをしています。そこにはケアマネ、介護、看護も学習療法の専属担当者も出ております。学習療法だけにとどまらず、老健全体の看介護について話し合って情報共有をしています。
泰羅 この件も山崎先生(特養・永寿園/学習療法研究会理事)から少しコメントをいただけますか。
山崎 学習療法を"専任スタッフ"か、"全スタッフ"でやるかということですが、突き詰めて考えますと、わが施設・わが施設のスタッフをどうしたいのかという、トップの思いと繋がってくるのではないかと思います。実は私たちのところでは、特養はその"中間"で、一人だけ学習療法の専任スタッフがおります(※)。川島先生との共同研究を始めた時からのパート職員ですが、このことに非常に興味関心を示して、今まで10年間やってくれています。このスタッフは介護はされない。学習療法にはこの方と介護スタッフも一人入ります。そこで情報交換を一緒にやりながら、その専任スタッフが気付いたことを記録にし、会議にも出席し、介護の場面に生かせるような、提案、気付きを発信するという学習療法場面と、介護場面をコラボするキーパーソンになってくれています。これで10年間やってきていることで、利用者の学習場面についてはほとんど把握できているので、どれがいいかというのはそれぞれの施設の、自分達の施設をどう作り上げていくかということと、関わってくるのかと思います。
※特養以外の、老健・GHなどでは専任スタッフはおいていません
泰羅 本日は4名のお医者様からお話をいただきました。ドクターの立場からの介護ということで、本日の参加者の方々には非常に参考になったのではないかと思います。
結局、薬で治すものではない、学習療法というツールを使って、人と人との関係性を創りながらそれぞれの方を介護していく、支援をしていくというのがとても大切なんだということが、この場でもう一度確認できたのかと思います。